【創作】カガミ

はてなブログのブログチャレンジに「小説を発表する」というのがあったので。

小説を書くの久々。

 

 

「肝試しに行こうぜ!」

 徹がそう言ってきたのは、クラスメイトのほとんどの受験が終わり、あとはただ徒に中学生活を過ごすだけとなった、二月の末のことだった。それを聞いた瞬間に僕は、面倒くさいなと思って、遠回りに徹にそれを伝えようと言葉を選んでから口を開いた。

「肝試しって夏だろ。何でこんな寒い時にやるんだよ」

「卒業記念。ほら、皆四月から別々の高校だろ。思い出作りだ思い出作り」

 そうだろ?と徹が同意を求める。少し嫌な予感がして、僕は訊いた。

「他に誰か誘ったりしたの」

「それはもう。大地に真理恵、春奈、響も誘ったぜ」

「返事は?」

「全員超乗り気」

「嘘だろ」

 僕はがっくりと肩を落とした。皆、暇すぎる。この状態では、徹はなんとしてでも僕を参加させようとするだろう。どうやって逃げればいいのか、それはもう、考えるだけ無駄だ。

「分かったよ、行けばいいんだろ。行けば」

 

◆ ◆ ◆

 

 三日後の夕方。

 僕達は肝試しに東東(ひがしあずま)町へと来ていた。電車を降りてからずっと腕を組んで前を歩く大地と真理恵にリア充爆発しろと思いながら、僕は二人の後に続いた。いや、正確に言えば、彼らよりも前に居る徹についていった。隣には春奈が歩いている。視線を向けたら目が合った。何かあったら真っ先にあんたを盾にしてあたしは逃げるから。そう言われて、いや僕だって逃げるよ。春奈を置いてね、と返してやる。その会話を聞いていたのか、後ろを歩く響が、いいなあ、私、足が遅いから、なんかあったら、私が一番最初にやられちゃう、なんて呟く。

「皆、大丈夫よ。何かあっても、大地が居るし」

「おう、任せておけ!」

 僕はもう一度思った。

 リア充爆発しろ。

「ねー徹。今日行くところってどんなところなの?」

 真理恵の質問に徹が振り返る。よくぞ聞いてくれた、なんて仰々しく徹は胸を張った。

「公園の近くにあるお屋敷みたいな廃屋。この辺りに住んでるやつらは猫ばばあの鏡屋敷って呼んでるんだってさ」

「誰から聞いたの」

「塾の友達」

「ふーん」

「その中に一歩足を踏み入れたら、鏡の世界に引き込まれて、帰ってこれない。屋敷の中にはばばあが徘徊していて、そいつに殺される。猫に囲まれて自分も猫になっちまう、とか。色々な曰く付き」

「やだーこわーい」

 真理恵が大地にきつく抱き着く。ほんとお前らどっか行け。というかそんなに離れたくないなら、何でお前は女子高なんて受験したんだ。意味が分からない。

「でもこんな話もあるんだぜ。屋敷の一番奥には巨大な鏡がある。その鏡には女神様が住んでいて、何でも願いを叶えてくれる」

「それ、いいな」

 それから僕達は叶えてもらうならどんな願いがいいか、そればかりについて話した。数十分後、目的地である廃屋に到着。長く高い煉瓦の塀。そこから見える屋根。確かにお屋敷だ。社会科の教科書の、確か大正時代の文化のページで似たようなものを見た気がする。

ごくりと誰かが唾を呑み込む。響のやつだろうな、多分。流石に真理恵と大地も表情を変えていた。

「よし、行こうぜ」

 徹が朽ち果てた門扉を開ける。汚れた石が玄関まで点々と続いていた。庭の植物は枯れ果て、どんな木が植えられていたのか、どんな花が咲いていたのか想像することも不可能だった。徹が玄関を開ける。埃が積もった廊下。その壁には無数の鏡、鏡、鏡――。各々が持っていた懐中電灯をつける。わ、と響が声を出した。猫が。そう言った。

「気のせいだろ。俺には見えなかったし」

 徹の声が何処か上ずっている。よし、と言って徹は廊下を進んだ。しかしすぐに行き止まりに当たる。廊下自体は続いているのに、天井から落ちてきたであろう木材が道を塞いでいるのだ。

「まじかよ」

「ねーこっち、行けるみたいよ」

 真理恵が扉を示す。じゃあ行くかと大地が扉を開けた。客間だったのだろうか、ソファーやテーブルが並んでいる。そして、ここにも、鏡、鏡、鏡。

「金持ちだったんだな」

「私もこういうところに住んでみたーい」

 うっとりとする真理恵。

 そんな彼女と対照的に春奈は顔をしかめる。

「こんな広いと掃除が大変。私はマンションの方がいい」

「掃除なんてお手伝いさんにやってもらえればいいのよ」

「お金かかるのは嫌」

 女子達の会話に僕がうんざりするのとほぼ同時に、ごと、と鈍い音がした。反射的に振り返る。そこには懐中電灯が転がっていた。……この懐中電灯は……。

「……響?」

「は? 響居なくなったのかよ?」

「え、ちょ、嘘でしょっ?」

 真理恵が大地にしがみつく。春奈は近くに居た徹の腕を掴んだ。

「と……とにかく響を探そう」

「怖がって、外に出たんじゃねえの?」

「でもドア閉まってる」

「響が閉めたんだろ」

 一刻も早くここから出たい状況で丁寧にドアを閉めるだろうか。僕はそう思ったけれど、これ以上の反論は無駄な気がして、口をつぐんだ。大地がさきほど通ってきたドアノブに手をかける。あれ、と抜けた声を出した。

「開かない」

「はあ? 貸してみろよ」

 徹が大地を押しのける。同じようにドアノブを握った。がちゃがちゃと音を立てた。どうやら本当に開かないらしい。

「まじかよ、なんで」

 春奈が他のドアノブに手をかけた。そっちは開いた。

「仕方ないから、他の部屋から出ましょ」

「そ、そうだな」

 春奈が部屋の外に出る。続いて大地と真理恵、そして徹。僕は最後になってしまった。廊下に出るかと思っていたのに、次の部屋は食堂だった。汚れたテーブルクロスに、埃まみれの椅子。そしてまた、鏡、鏡、鏡。一体何枚の、鏡、鏡、鏡。

 にゃあ。

 僕は猫の声を聞いた。無意識に足元を見る。そこには、首輪に小さな鏡をつけた黒猫が居て。

「え?」

 

 にゃあ。

 

 その鳴き声で、僕の意識は途切れた。

 

 

続く……かも?

 

 

 

 

 

書く前に抱いていたイメージとはだいぶ違ってしまった。

続き書くなら、きちんと考えねば……。