今村昌弘【屍人荘の殺人】を読みました
文庫になるまで待てませんでした!!
感想書きます。
ミステリ小説なので
・犯人の名前
・事件の詳細
・トリックの中身
・結末
には触れません。本文・タイトル・登場人物に関しては触れます。
つまりネタバレありきの感想文です。
大丈夫という方はどうぞ。
あらすじとしては、よくある「クローズド・サークル」(嵐の中の離島とか、大吹雪で孤立したペンションとか)です。
紹介文風に書くとしたらこんな感じです。
紫湛荘(しじんそう)に集まった映研サークルのメンバー+サークルのOB+ミステリ愛好会のメンバー。しかし彼らはとある事情によって紫湛荘に閉じ込められてしまい、そして殺人事件が……!!
この作品「とある事情」っていうのがぶっ飛んでます。
嵐でもない。
大吹雪でもない。
つまり自然災害ではない。
誰かに電話線を切られたなんていうレベルの話でもない。
だって誰が考えるだろう?
ゾンビ襲撃による孤立だなんて。
もうね、凄くびっくりしました。
ゾンビかよ!
本格ミステリにゾンビかよ!
なんだか一気にパニックホラーというか違うカテゴリの小説になったぞ!
……とか読みながら思ってたんですけど、「ゾンビ」というぶっ飛んだ存在がちゃんと本格ミステリを構成する要素として落とし込まれています。凄いわこの作者。
しかも「ゾンビ」=「ただ単純に死体が動いてますよー」ではなく、ヴードゥー教のゾンビの解説をして、更に映画歴史を絡めつつ、「今自分たちの前に現れているゾンビというのはこういうものなんだ」ときちんと定義している。(もちろん何故ゾンビが発生したかも含めて)この定義がなかったら犯人が何故その方法を使って殺人を犯したのか(いわゆるホワイダニット)が薄れる気がします。
ゾンビがしっかりと絡むので【紫湛荘の殺人】ではなくて【屍人荘の殺人】。
作者の今村さんのネーミングセンスが光っている。
タイトルだけじゃなくて、登場人物の名付け方にもぞくぞくします。
名は体を表す、を忠実に実行しているような。
例えば。
菅野唯人(かんの・ゆいと)という男性キャラが出てきます。
このキャラクターは別荘の管理人。
『唯、管理をしている人』。
明智恭介(あけち・きょうすけ)はミステリ愛好会の部長です。
ミステリが好き、推理が好きということを表す為に苗字は明智小五郎から、名前は神津恭介から。
ああ、ぞくぞくする痺れるっ……(落ち着きなさい)。
上に書いたような名前に関する仕掛けはこちら(読者)が気づかなくても、登場人物の一人である剣崎比留子(けんざき・ひるこ)が解説してくれるので、心配なし。
(選考委員の加納朋子さんもこの点褒めてます)
でも解説者である剣崎比留子と物語の語り手である葉村譲(はむら・ゆずる)については何も言及がないんですよね。
ここまで名付けにこだわる今村さん(今作者プロフィールみたけど1985年生まれだって。同級生じゃないですか)なので絶対何かあるはずだとにらんでます。
剣崎比留子の元ネタ(と言っていいのか)は日本神話の「ヒルコ」からきてるんじゃないかなと思ってますが……。
(事件を呼び寄せてしまう性質で親に疎まれている≒神の子として生まれたものの、出来損ないであった為親に見捨てられた)
(苗字の剣崎には意味なし?)
譲くんは……何なんだろう……と色々検索していたらこんな記事を見つけました。
この葉村晶があまりにもトラブルに巻き込まれたり悲惨な目にあうので「不運な女探偵」としても有名なんです。
(上の記事より引用)
葉村はここから?
(事件に巻き込まれる、あとクライマックスで悲惨な目にあってる)
譲はこの人から?
色々な推理作品アンソロジーの編纂をしたり、解説をしている人です。
(読者にとっての解説役)
これ合ってたら嬉しい。どうですか今村さん。
解決場面の、すぱすぱっとした、まるでよく切れる刀でそぎ落とされていくような感覚。
ゾンビという「新しいクローズド・サークル」。
普段ミステリ読まないなーって方も読みやすいと思います。
もちろん綾辻行人、二階堂黎人、北村薫など本格ミステリにどっぷりはまっている方にもおすすめです。新しい扉が開きますよ。
シリーズ化されないかなー。